《告白》



 その日、嫌に魔理沙が構ってきた。

 いつもなら壷に腰掛けてありふれた話をするだけなのだが…いや、今日もありふれた話のはずだ。
 世間一般では。

 ただ僕の場合、今々魔理沙から出された質問に答えられる答えを持ち合わせていないこともあり、変に口籠ってしまったのが悪かった。

 ――好きなやつはいないのか。

 そんなこと魔理沙が知っても何もないのに。
 どうせ新聞屋に情報を売って小遣い稼ぎでもするのだろう。
 ただ僕が笑いものになるだけの情報、なぜ魔理沙が欲しがるのか分からないが、僕は魔理沙を早々に追い出してしまった。

 静かになった。そう落ち着いたと思ったのに、勘定台の座る女性が1人。
 音もなくたたずむ姿はまるで牡丹のよう。ならば歩く姿は百合のように艶やかなのだろうが、あいにく僕はこの女がまともに歩いているさまが思いつかなかった。

 八雲紫。

 僕が苦手とする大妖怪。
 その大妖怪は僕をなだめるように、静かにかつ厳かに口を開いた。

「諦めたくないって気持ちは誰しもあるでしょう?」

 ちなみに僕は気分が苛立っているわけではない。
 おそらく今出て行った魔理沙のことについて言っているのだろう。
 人を笑いものにして何が楽しいのか。
 僕は人を蔑むようなことを教えた覚えはないし、あえて言うならば他人の好きなヒトを知るのに諦めも必要なことを教えただけである。

「なにもそこまで言ってないわ」

 そこまでも何も無理して聞き出すことをやめるべきだと言っただけだ。
 ことによっては諦めてはいけないことも確かに存在する。
 それはいつか自分の力になるはずだからだ。

「ただ、求め続けることは生きるための活力源になるわ」

 そう、全くその通り。
 紫の言いたいことは僕の言いたいことと同じなのである。

 しかし、魔理沙が僕に問いただしたことは魔理沙にとっての活力源になるとは思わない。
 だから僕は…。

「我慢することも必要っていいたいのよね?」

 そうなのだ。なんだか今日は紫に気持ちを悟られているような気がしてならない。
 見透かされている。この大妖怪の前ではいつもそう思えてならない。
 だから苦手とするのだが…。

 嫌な顔が出ていたのか、紫は軽くため息をつき勘定台から降りると何もない空間からスキマを出現させた。
 すぐに帰ると思いきや、突如こちらに振り向いて、いつもの妖艶な笑みを浮かべると

「すぐにやってくるわよ。断言してもいいわ」

 と、言った。
 それは顔の見知った魔法使いのことだろう。またあの質問がきても僕は答えるつもりはさらさらないけどね。
 紫は再びスキマに向かおうとするのだが、なぜか入り口の前に立ち止まってしまった。
 そのとき紫が何か言ったような気がしたのだが、あいにく聞き取ることは出来なかった。

「気にしないで。ただの独り言だから」

 顔も見せずに言った言葉を最後に紫は姿を消してしまった。
 声だけしか聞いていないのに、なぜか寂しげな印象を受けたのだが、それは気のせいだと自分に言い聞かせることしか僕には出来なかった。
 もとい、白と黒の少女が勢いよく扉を開けたことでそこまでしか考えられなかったともいう。

 紫が何を言いたかったのか、それは僕に分かるはずもないことだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

atgk
ちがらいよのなか
ろんのみをついきゅうしつづけ
たりはいつもすれちがい
ちどまってみつめあうころには
きのようにおもわれて
るもまくらをなみだでぬらす
もふたもないはなし