《ポッキース》



 いつもは黒色と白色の霧雨魔理沙はその日は顔を赤くしていた。
 おまけに持っている箱も赤い。

「いよぅ!香霖!今日はポッキー&プリッツの日だぜ!」
「…なんの話しだい?」

 魔理沙からはきつい酒の匂いがした。
 酔っている。
 おそらくいつものような宴会の最中に香霖堂に来たらしい。
 酔った魔理沙が香霖堂に来ることはさほど珍しくないことなので、霖之助が慌てることはない。

「まったく香霖は流行にうといなぁ。11月11日はポッキー&プリッツの日なんだ」
「はぁ…。ぽっきぃとぷりっつ、ねぇ」

 残念ながら霖之助はその言葉を知らなかった。
 自分の頭の隅に似たような言葉があったのだが、それを思い出す前に魔理沙が言葉にしていた。

「じゃあポッキーゲームを始めるぞ!」
「待て待て待て。だからどうしてそうなるんだ」
「香霖はチョコの方がいいか?それともクッキーからの方がいいか?」
「僕の話を聞いてくれないか?」
「じゃあ私はチョコの方からにしよう」

 パクッ

「ん~」

 全く霖之助の話を聞かない魔理沙は、問いかける霖之助を無視してどんどん話を進めていく。
 そしておもむろにポッキーをくわえて、つま先で立つ。
 まるでキスをねだるように目もゆっくりと閉じらてしまった。
 霖之助は焦った。

「……わかった、魔理沙。ポッキーゲーム自体は聞いたことがあるぞ。たしか合コンや酒宴で行われることが多いのだが最近はあまり使用されないゲームだとか…」

 じー

「そんな目で見つめられても…」

 なかなかポッキーをくわえない霖之助に業を煮やしたのか、魔理沙は霖之助の目をジッと見つめる。
 頬は紅く、目にも涙が溜まっているように見えたのは、霖之助の気のせいだろうか。


 ポッキーゲームはある種勝負である。
 先に唇を離したほうが負け。しかし、この勝負に勝ちはないのだ。
 お互いが口を離さずに食べきった後に残るもの。それは―…。


 霖之助は悩んだ。いくら魔理沙が他人であっても、霖之助にとって妹的な存在である。
 恋人になる気も、一線を越えるつもりもない。
 つまりこのポッキーゲームを進めていくわけには行かないのだ。

 じー

 見つめてくる魔理沙に申し訳ないと思いながら、霖之助はずれた眼鏡を直して口を開く。

「よく考えてくれ魔理沙。そのポッキーゲーム…。理不尽だと思わないかい?」
「ふぇ?」

 ポッキーをくわえたまま、魔理沙は首を傾ける。

「だってそうだろう?そのポッキーと言う食べ物…ポッキーゲームをするための食べ物だが…。なぜがチョコレートが片寄った塗り方をされているじゃないか。これでは一方が味の偏りが出てしまう。そうだろう?もちろん、甘いのが苦手などと言う片割れだったらそれは丁度いいかもしれないが、ポッキーゲームと言う勝負にとっては不公平だとしか言えない。アンフェアじゃないか!つまり、このポッキーゲーム…最初から勝敗が決まっているということさ。チョコレートがかかっていないことでバランスがとれず、先に折れてしまったり、味の偏りにより口を離してしまう…。そんな可能性がないともいえない…。僕は鍛えていないが、それなりにプライドはある。負け戦には挑戦はしないよ」

 これは勝負。
 もしもわざと負けたが最後。魔理沙にどんなことを要求されるか分からないし、もしも唇同士が触れてしまえば今の関係が崩れてしまう。
 くわえた時点で霖之助の負けなのだ。
 そうなれば、霖之助が勝つためには敵前逃亡…戦略的撤退しかないのだ。
 言い終えた霖之助は、魔理沙に気付かれないようにホッと息を吐くと、魔理沙の様子を垣間見る。

 じー

「!?」

 霖之助は驚いた。
 魔理沙の顔はまるで諦めたような顔ではなく、何を言われたかいまいちピンとこないような、キョトンとした表情だったのだ。

(なっなんだ?!今の魔理沙は酔っ払いだからか?いつもの魔理沙ならば、少々長い話に飽きて宴会に戻っていくと踏んでいたのに…!)

「ふむ…。つまり香霖はチョコが食べたいってことだな」

 やっと結果が出たのか、魔理沙は腕を組んでウンウンと頷き始め、ポッキーが入っていた赤い箱とはまた別の箱をどこからともなく取り出した。
 箱の形状は赤い箱とそっくりなのだが、中身は違う。

「ほら!ポッキーが嫌ならトッポがあるぞ!これなら中までチョコぎっしりだ♪しかも最後までだ!」

 胸を張ってトッポなる菓子を見せ付ける魔理沙に、霖之助は大きくうなだれた。














「魔理沙…いいのかい?」
「いいも悪いも私は香霖だからコレをするんだ」
「魔理沙…」
「香霖…」
「チョイセー!!」
ボキッ
「?!」
「?!っ霊夢!!」
「まったくアンタが居ないとどこぞの●●(お好きな少女名を入れてください)が落ち着かないったらないわ。さっさと戻ってきなさいよ」
「今っ!私はっ!」
「はいはい。また紫にしょうもないこと教えられたのね。行くわよー」
「うわぁ!エプロン引っ張るな!」
「邪魔したわね霖之助さん」
「あ、ああ」

霊夢邪魔エンド



「魔理沙…いいのかい?」
「いいも悪いも私は香霖だからコレをするんだ」
「魔理沙…」
「香霖…」
「あら手が滑ったわ」
ボキッ
「?!」
「?!っ紫!」
「私がせっかくお茶請けに持ってきたお菓子をこんなところに持ってくるなんてひどいわ。お酒に合うのよ?意外と」
「あっ!今っ!使ってっ!」
「こんなおいしいものここで食べるくらいなら神社で食べましょうよ。きっとおいしいわ」
「うわぁ!スキマに引きずり込むんじゃない!」
「邪魔したわね霖之助」
「あ、ああ」

紫邪魔エンド



「魔理沙…いいのかい?」
「いいも悪いも私は香霖だからコレをするんだ」
「魔理沙…」
「香霖…」
ポキッ
「?!」
「くわえる前に折れてしまったね。いやぁ残念だ」
「こっ香霖!今私が目を瞑ったから…っ!」
「何の話だい?」
「トッポは一本じゃないんだ!今度こそ………あれ?」
「それは不公平なポッキーの箱だねトッポはこっちみたいだ」
「あれ…?いつの間に…」
「酔いすぎだよ。外の空気でも吸ったほうがいいよ」
「うぎぎ…目を瞑った隙にか!?」
「なんの話しだい?」

霖之助逃げエンド






 

 

 










…と、見せかけて。


「しかし、甘い食べ物だな、…チョコレートか。大方紫が持ってきたんだろう?」
「……」
「それで君は宴会の隙にくすねて来たわけだ」
「………」
「…いつまでふて腐れてるんだ。トッポもくわえたままで」
「……だって」
「………」
「…いーけどな。香霖がしたくないんなら…。でもっ…」
「むがっ!」
「逃げ方は男らしくなかったがな!」
そして魔理沙は飛び去ってしまった。
霖之助の口に入れられたもの、それは魔理沙がくわえていたもの。
それはそれは、甘い甘い…。

魔理霖エンド