《コイバナ》



 笑わないで聞いてくれるか?これは私とお前だけの秘密だぞ?

 …私がまだあの家にいたときの話なんだ。
 あいつもまだあの家にいて…。
 
 私はそれが当たり前で、あいつのことなんてなんとも思っていなかったんだ。なんともな。
 …そりゃ、背も高くて大人だし、ちょっとかっこいいかなぁーなんて思ったことも……あったか?
 
 私も幼かったからな。あのときの記憶なんて曖昧なもんだ。

 とにかく、目覚めてから、おやすみを言うまでずっと一緒で、それが当たり前に思っていたときの話ってこと。

 え?本題?まぁ待て。こっちだって思い出すのも恥ずかしいんだ。


***


 いい夢を見た。

 楽しくて、とても楽しくて、隣で眠るヒトに教えたくてしょうがない衝動にかられた。
 魔理沙は目の前の男に話しかける。

「ねぇ香霖…私ね」

 しかし、香霖と呼ばれた男は寝ぼけている。

「ん…なんだ魔理沙…厠に行きたいのかい?」

「ちがうよっ。あの…夢を…」

「寒いのかい?ほらもっと寄って」

 やはり寝ぼけているのか、男は魔理沙を抱き寄せて、布団に入っていることを確認すると、安心したように再び眠りについた。

 多少戸惑ったものの、魔理沙は「うん…」と静かに呟くと、男の胸に頭を預けた。



 伝えられなかった。

 あの夢はとても楽しくて、きっと聞いたこの男(ヒト)も楽しくなる夢だろうと思ったのだ。
 だから無理やり起こして言い聞かせようとした。

 もう一度話しかけようかと思ったが、すんなりと諦めることにする。
 この温かさの方が大切に思えたから。あの夢以上にこの時間のほうがもっと楽しいから。
 
 そして魔理沙も眠りについた。




***



 いや…それで…薄明かりの中で見た香霖がなんとなく…ホントになんとなーくだぞ?ちょっと…かっこよく見えてだ…。
 あー?なんか言いたそうな顔だな。おい。
 ……これ…香霖に言うなよ。
 絶対だからなっ!言ったらマスタースパークの刑だぞ?!


 魔理沙はホウキにまたがったと思えば、逃げるようにその場から離れてしまった。
 そして空からもう一度。

「絶対言うなよー!!」