天霖おまけ(?)

「では、次は庭掃除ですよ。総領娘様」
「わかってるわっ」
「そんな投げやりに言っていてはダメです。庭というものは領地と外界を分ける壁以外の境界なのです。もしそんな庭をおろそかにしていてはいつ領土を攻め入られても文句は言えません。そもそも総領娘様は~…」
「わかったわよぅ…お勉強より掃除してた方がましだわ」
 
 天子は文句をいいながら竹箒をもって庭へ向かった。
 今天子は“いい女”になるための修行を香霖堂でしている。
 なぜ香霖堂で行うか疑問に思ったが、日に日にほこりの消えていく店内を見ていたらどうでもよくなってきた。
 また、天子の指南役として衣玖が選ばれたことに不思議に思ったが、霖之助はすぐにそのことを理解した。
 衣玖の言葉はすべて的を得ており、正しいか正しくないか、何をやるべきか、どのようにやるべきか親切丁寧…かは疑うところがあったが、下手に霖之助が教えるより格段にヒトを動かすのがうまいのである。

「少し説教くさいのがたまに傷なんだが…」
「それは貴方には言われたくですね」
「おっと!口に出していたかい?」
「そうですね」
「お茶でも淹れようか?」

 立ち上がろうとする霖之助を衣玖は無理やり自分の横に座らせた。否、押し倒した。

「いいえ。このままで結構です」
「…この体勢はどうだと思うんだが…」
「わざとです」

 衣玖は天子が想っているだろう男を見定めるために香霖堂で修行の指南役をしていたが、天子が想う気持ちが分かった気がしていた。

「このまま…」

 このまま自分の方へ振り向かそうとも思い始めたが、それは庭掃除の道具を取りに来た少女によって止められてしまう。

「な~に~し~て~る~の~よ~!!」
「おや、総領娘様。ここは空気を読んで陰ながら様子を見ることが一番でしたのに…」
「あなたの空気の読む能力はそんなんじゃないじゃない!」

 少女2人が騒いだのをいいことに霖之助は衣玖から逃げ出した。
 ホッとするのもつかの間、2人は戦闘態勢となり、せっかく片付けた香霖堂が倒壊寸前になったのは言うまでもない。