《小さな小さな恋心》

 

 なんでだろう店主さんのことを思うとなぜか胸がドクドク言うの。
 藍様や紫様にこんなこと思ったことない。

 相談しようかな…ううん、ダメだよ。言えない。
 なんだか恥ずかしいの。初めてで…でも、不思議と心地いい。
 本当に不思議。

 私何か悪い病気にかかっちゃったのかな…?
 でも今は竹林の診療所に行くよりお店に行った方が治る気がするの。
 店主さんのいる香霖堂に。

 だって

「やぁ、いらっしゃい」

 こんなにホッとするもん。

 店主さんはいつもの場所でいつものように座って本を読んでいる。
 ただ座っているだけなのになんで店主さんがかっこよく見えるんだろう。
 不思議だね?

 私の中でおかしな感情が踊りだしたみたいでくすぐったい。
 くすぐったくて今すぐ駆け回りたい。大きな声で喚き回りたい。
 でもそんなことは子供がすることだもん。私我慢する。
 でもなぜかうずうずする。ああ、何かしてあげたい。

 藍様の役に立ちたいって思うのと似てる気がする。でも、なにか違う…。

 頭がぼうっとする。ホッペがあったかい。
 私のこの病気は風邪かもしれないな。
 でも、私たち妖怪の風邪ってこんなのだっけ?

「顔色が悪いが…大丈夫かい?」

「大丈夫!たぶんここまで走ってきたからだよ」

「ならいいけど」

 いけないいけない!心配させちゃった。
 不思議…心配させちゃったのに私うれしいって思ってる…

 でもね。心配よりも店主さんを喜ばせたいの。
 私になにかできないかな?

「ねぇ店主さん何か私が手伝えることはない?」

「手伝う…そうだな、唇が乾燥してヒリヒリするんだ。永遠亭まで薬を貰ってくるから、その間店番を頼まれてほしいな」

 永遠亭?行っちゃうの?ダメだよ!
 せっかく来たのに…!私といっしょにいてほしい!
 ヤダヤダ!行っちゃヤダ!会えないのヤダ!!

「ヤダ…」

「なんだい自分から手伝いたいと言っておいて」

 店主さんは、ははっと笑って身支度をし始める。

 イヤイヤ!行っちゃいや!ここに居てよ!
 そんなの私が治すもん!

 店主さんの唇を治してあげるもん!

「そんなの舐めておけば治るよ」

「だめだよ舐めたらもっと悪化してしま……橙?……」

 不思議だな。店主さんの声聞こえなくなっちゃった。