星を見ることが好き。
その好きが転じて魔理沙は星に関する魔法が多い。
おかげで星の名前も覚えている。
窓から空を見上げながら、魔理沙は星を探す。
春の星の代表と言えば春のダイヤモンド。
しし座とおとめ座とうしかい座とりょうけん座の一番輝く星4つを繋ぐと、はっきりとひし形が浮き上がる。 魔理沙はウシシと口角を上げながら、先日香霖堂から借りた不思議な形の道具を机に置いた。
運天儀。
いつか香霖堂で見せてもらった、幻想郷の賢者が作っただろう道具。
本で見た名前とは違う星座たちがそこに散りばめられている。
しし座は飛縁魔(ひえんま)座、おとめ座が皿数え座、うしかい座は不知火座、りょうけん座が狢(むじな)座…。
他にも釣瓶落とし座や大天狗座などの知っている星座とは似ても似つかない星座の名前に、不思議と親近感を感じていた。
おそらく身近にそんな妖怪がいるからだろう。
そのように解釈していると、春のダイヤモンドの中の小さな3つの星に星座としての名前が付けられているのを思い出した。
無性にその名前が思い出したくてしょうがなくなった魔理沙は頭を捻る。
大昔の外の世界では、名前の付け方がおかしいときがある。
定規座があれば、コンパス座があり、さらには彫刻室座なる星座も存在する。
これなら自分が名付けた方がまだいいだろうと思ったほどだ。
そういえば、この運天儀の拾った者も名前のセンスは無かったと思う。
剣に譲ってもらった人の苗字の名を付けるなど…。そう思いながらまるで魔理沙自身がそこに居続けるような気がして少し照れたのだが、魔理沙はブンブンと首を振りながら空を見上げた。
たしかおかしな名前。しかし、いくら思い出そうとしてもなかなか思い出せないというものが人間である。
とりあえず手元にあった運天儀を見る。
名前は全く違うが、ヒントか何かあればと思ったのだろう。
「えっと…何々…? つくもがみ座…?」
ふと空の気配が変化したような気がした。
見上げてみると、光が一筋。
「! 流れ星!」
おそらく、この一言ですでに星は流れきってしまっただろう。
しかし、魔理沙は祈った。
『もっともっと大きな力で弾幕を出したい』
心の中で3回唱え、もう一度空を見上げる。
濃紺の空に瞬く星が散らばっているのが見えるはずだった。
「な、ななな?!!」
窓の外は光で溢れ、真っ白な閃光が魔理沙の家に向かって流れてきていたのだ。
刹那、轟音が森に響いた。
*
「いってて…」
幸い大きな怪我は無いようだ。
そして周りを見回してみる。
「ホシガキレイダナー」
屋根は愚か壁も木っ端微塵。そこには家があっただろう形跡があるだけだった。
これではいつかの神社である。
「なんなんだよ…まったく。…お前か、こんなふうにしたの」
「………」
どこぞの妖怪が攻撃してきたのかと思い、懐の八卦炉を取り出して戦闘態勢になる。
そこには、銀色の長い髪をもつ少女がへたり込んでいただけであった。
「………」
「なんとか言ったらどうだ?」
「私、雨岡未璃…。貴女の欲しいもの。叶えにきた」
「は?」
雨岡未璃と名乗った少女は、服の埃を払うと魔理沙にもう一度同じことを言った。
「貴女の欲しいもの。叶えてきた」
疑うような目で居ていると、未璃はもう一度言う。
「貴女の欲しいもの…」
「それは分かった。お前はアレか?流れ星とでも言うのか?」
「………」
未璃は黙ったまま首を傾けた。
その意味はおそらく『?』。
まるで魔理沙を可哀想な子とでも言うような目である。
「あー。もういい。叶えてくれるなら叶えてくれよ。まず家だな」
投げやりに言うと、意外にも未璃はコクンと首を縦に揺らし、手を上げて力を貯めるような姿勢をとった。
――ホントにやるのかよ。
と、半分疑いと半分期待の視線を送っていると、未璃の体は輝きだし、光の粒子がどこからともなく集まってきた。
本当にそんなことが出来るのだと期待しかけたとき。ふいに未璃は上げた手を下げて魔理沙の方に振り返った。
「…ダメみたい。私は家を与えることができない」
「じゃあなんだったんだよさっきのはぁ!!」
「貴女の欲しいもの。もっと他にあるはず」
イライラする気持ちを抑えながら、魔理沙は先ほど流れ星に祈った内容を思い出す。
「…なら、もっと大きな力が欲しい。これが私の欲しいものだぜ」
先ほどと同じように未璃はコクンと首を縦に揺らし、手を上げて力を貯めるような姿勢をとった。
――これが叶ったら本当に流れ星だったっていえるよなコイツ。
と、半分疑いと半分期待の視線を送っていると、未璃の体は輝きだし、光の粒子がどこからともなく集まってきた。
本当にそんなことが出来るのだと期待しかけたとき。ふいに未璃は上げた手を下げて魔理沙の方に振り返った。
「…ダメみたい。私は大きな力を与えることはできない」
「お前本当になんなんだよ」
がっくりと肩を落としていると、焦点の合わない目をしながら未璃はまるで呪文を唱えるように口を開いた。
「貴女は私に似ている。私に近い。乙女…」
「はぁ?」
「私、寝る…。……大変…布団が無い」
「ってお前のせいだろ!!」
突拍子のない会話に魔理沙もついて来れなくなりつつある。
さらに、未璃は周りを見回し
「大変…宿がない。」
と言った。
「お前のせいじゃないか…」
正直突っ込むのも面倒になってきた魔理沙であった。
*
「香霖助けてくれ!なんか変なヤツが…!!」
「私変なヤツじゃない。貴女おかしい」
「あー!もう!いちいちイライラするなぁ!!」
「誰だいその子は?」
夜分に押しかけられた霖之助にとっては、魔理沙と未璃の言動は意味の分からないものでしかなかった。
とりあえず居間に移った3人は、事の顛末を説明していた。
~~かくかくしかじか~~
「はぁ…雨岡さん…。ねぇ」
「突然やってきては訳わかんないこと言ってしまいにゃ家を壊されるし…」
「宿ない。泊めて」
「お前のせいだろ!」
今にも牙を向かんとする魔理沙を宥めると、霖之助はふぅ、と軽くため息をついた。
「…まぁ僕は構わないが…。もっと適地はあっただろうに」
「アリスの家でも博麗神社でも私がよかったんだが、コイツが…」
「魔理沙がここがいいって言った」
「言ってない!お前が真っ直ぐこっちに向かうからだろう!!」
宿が無いと分かった未璃は、魔理沙の手を引きながら香霖堂の道を真っ直ぐと進んだらしい。
つまり…。
「つまり、君はこの店を知っていたんだろう?君はどこから来たんだい?」
「………」
「………」
「………」
霖之助の問いに未璃は黙り、それにつられて魔理沙、霖之助までも沈黙してしまう。
「なんか話せよ」
「…居候。飯作る」
やっと話したといえば飯らしい。
たしかに魔理沙は夕食を取っていなかったし、偶然にも霖之助の方も『今日は食べない日』だったらしい。
空腹を覚えた未璃が指差した相手…。
「って私が作るのかよ!?」
そのとき魔理沙の腹の虫も鳴いたこともあったので、魔理沙自身は文句を言いながらも台所に向かっていった。
居間に残された2人・霖之助と未璃は特に会話もなく過ごすことになった。
沈黙に耐えられなくなったのか、それとも謎を明かすためか、霖之助は言った。
「魔理沙の家から僕の店の道を知っていたり、魔理沙の家を光で壊したなんて…人間ではないだろうが…。君は…一体なんなんだい?」
どこか焦点の合わない目は霖之助を見ているのかも分からない。ただ淡々と言葉を言うだけだった。
「…私は魔理沙の願い…。私は雨岡未璃…。どちらにせよ、熊を追うものはすぐに来る…」
「?」
突然未璃は立ち上がり片言で
「居候私。風呂沸かす」
と言った。
霖之助はただ未璃の背中を見ることしか出来なかった。
*
「ほーい出来たぞー」
「悪いね」
魔理沙が軽く夕食を作ってきた頃には、未璃も風呂焚きから帰ってきており、未璃はまるで自分の家の食卓を囲むように座っていた。
その様子に魔理沙は少しイラッとしたが、おそらく空腹のため。そう自分に納得させながら自分も席に着いた。
「それじゃあいただこうか」
霖之助の声に自分も箸を伸ばそうとしたとき。
ギシリ
「…なんで未璃は私の手を縛ってるんだ?」
いつの間にか…、本当にいつの間にか未璃は魔理沙の後に回り込み、香霖堂にあったのだろうロープで魔理沙の腕を縛っていたのだ。
ふぅ…。と、どこかやりきったようなため息を吐くと、何事も無かったかのように呟く。
「大変…。魔理沙腕が無い」
「あるけどお前が縛ってるからな」
「貴方は魔理沙の箸役」
「箸役?!」
魔理沙の言うことなどまるで無視の状態で、霖之助に向かって指を指す。
驚く霖之助を他所に未璃は魔理沙の顔を後ろから抑えながら口を開けさせた。
「魔理沙、あーん。して」
「はぁ?!なんで私がそんなことしなくちゃいけないんだ!?」
「運ぶのは森近。魔理沙な楽なはず」
つまり、魔理沙の口に霖之助が食べ物を運び食べさせてもらう。その図はまさに新婚さんである。
腕を縛られていたり、顔を掴まれているという少々おかしい点はあるが…。
恥ずかしいという気持ちは魔理沙には無かった。
ただ無理やりそのような行動に移されるのが納得いかない。
「楽でもヒトに食べさせてもらうなんて病気でもない限りお断りだぜ!」
ブチブチと腕から聞こえると思えば、ロープは千切れ、そこには荒い息遣いの魔理沙と、呆然とその様子を見ていた未璃と霖之助が居ただけであった。
「……魔理沙力強い」
「~~~~!!! 飯食うぞ!」
間が恥ずかしかったのか、魔理沙は少々顔に血が登るのを感じた。
未璃と霖之助はただただ魔理沙の作った料理を食すことしか出来なかったという。
*
「森近。風呂は入れ」
「あ、ああ…」
魔理沙の作った料理がすべて無くなってすぐのこと。
未璃は霖之助を追い出すように風呂へ入るようにと命じた。
自分の家なのになぜ命令されなければいけないのかと首を傾げたが、未璃の放つつかみどころの無い雰囲気は有無を言わせない不思議な力があるのだ。
霖之助が居間から居なくなったのを見計らい、未璃はまたも魔理沙を指差し命じた。
「居候。皿洗う」
「また私かよ…」
「居候私、布団敷く」
肩を落とす魔理沙を他所に、未璃は本来の目的だった布団を敷く作業をするといって居間から出て行った。
「…本当にあいつはなんなんだ…?」
*
「居候。次風呂」
皿がすべて洗い終わったときだった。
計ったように現れた未璃は、魔理沙にタオルを渡した。
「あ?なんだ、香霖もう出たのか?」
「男、入浴短いもの」
「そんなもんか…?」
半ば強引に風呂へと誘う未璃を疑いの眼差しを送る。
しかし、ほぼ無表情の未璃が考えていることは分かるはずもなく、ただ言われるとおり風呂へと行くしかなかった。
「…しかし、あいつは一体…」
脱衣所で衣類を脱ぎながら考える。
家を崩壊させた閃光は未璃が放ったものなのか、それとも未璃自身だったのか。
家を崩壊させるために閃光…弾幕を打ったのならそれは魔理沙への攻撃に等しく、魔理沙に何かしら危害を加えるためにこうして一緒にいるのかもしれない。
それならば、なぜ香霖堂に来たのかが分からない。
未璃は願いを叶えに来たと言った。
魔理沙の力の素がこの香霖堂にあるとでもいうのだろうか?
色々と考えながら風呂場に移動する。
開けたとたんムワッとした空気と真っ白な湯気が視界を奪う。
そして音を立てながら扉を閉めると、扉を閉める音とは異なる音が風呂場に響いた。
ガチャン
「ん?何の音だ?」
まるで扉の鍵をかけたような音を確かめるように扉に手をかけようとしたとき、魔理沙の後ろ。つまり湯船から聞いたことのある声が聞こえてきた。
「…魔理沙?」
「………香霖?」
真っ白な視界の中、目を凝らしてみると、そこには未璃から『もうすでに出ている』と聞いたはずの先客が居たのだ。
「………」
「………」
なんともいえない間が風呂場に響く。
天井から水滴が落ちて、ピチャンという音をたてて魔理沙は我に返った。
「なんでまだ入ってるんだよ!! くっそアイツ私を騙し…っ!? なんで開かないんだ?!」
ドアノブを押しても引いても横に移動しようと動かすが扉はびくともしない。
そして小さく声がした。
「2人、風呂、仲良し」
「意味がわかんねー!!!」
まさに未璃の声。
魔理沙は頭を抱えてその場に崩れ落ちた。
*
「…魔理沙?いつまでそうしてるつもりだい?」
「アイツが鍵を開けるまで」
現状は変わっていない。
霖之助は湯船に浸かり、その霖之助を見ないように魔理沙は最初の位置で小さく膝を抱えている。
今の会話を除き小さな水音と窓から聞こえる風の音だけである。
「寒くないかい?」
「寒いぜ」
「僕は熱い」
「は?!」
驚きで霖之助の方を向こうとした魔理沙だったが、自分も相手も一糸纏わぬ姿と気付き視線を元の位置に戻した。
「…どうやらあの子、風呂の火を焚きすぎたようだ。どうだろう。僕と位置を代わってもらえないかな」
通りで湯気が多いと思った。
魔理沙がぼんやりと考えていると、湯船から激しい音が。
バシャァア
音のみしか聞いていないが、おそらく霖之助が湯船から立ち上がったのだろう。
「うわぁ!立つなこの変態!!」
思わず目を塞ぐ魔理沙に、霖之助は眉をひそめた。
「…小さい頃は別に普通に入っていたじゃな…」
「うわーうわー!!!何も聞こえないーーー!!!」
小さい頃と今は違う。
それくらいの違いは分かっていると思っていたのに、今でも自分を子ども扱いする霖之助に苛立ちを感じ始めた時。
「…君がその気なら、僕もそれなりに考えがある」
「へっ?!」
驚いて視線を霖之助に移すと、そこには立ち上がる裸体が見えた。
幸い湯気で詳細までは見えなかったものの、これから霖之助がする行動が分からなかった。
「いやなら目でも瞑っていたらいいだろう?」
「っ!!」
魔理沙は『寒い』と言った。もしかしたらその寒さを軽減させる何かを霖之助がするのかもしれない。
寒さを軽減させることとは?
幼い頭で考えるには、裸体の男女がする行為を想像せざるおえない。
自分を大人の女と認識してくれたのかという期待と、これからすることの不安が魔理沙の中で渦巻いていたとき。
バコンッ
「…?」
何かを壊す音と、少し距離のあるところで霖之助の「よいしょっ」という声も聞こえた。
いつまで経ってもヒトが近づいてくる気配がなければ、むしろ冷たい春の風が魔理沙の肌を撫でる。
恐る恐る目を開けると、頭上の窓が乱暴に壊されている他に、魔理沙以外の人は風呂場に居なかった。
*
それからしばらくすると扉の鍵も開いており、魔理沙は濡れた頭を拭きながら居間へと向かった。
「ヒトをおちょくるのもいい加減にしないか」
「私は魔理沙の願いを叶えに来た。たとえそれが猟犬と似たようなこととしても」
そこには服を着た霖之助と、その霖之助に説教させられている未璃がいた。
お互いに正座をし、厳かな雰囲気であるのだが、やはり未璃は意味不明な言葉を発する。
未璃の言うとおり、魔理沙の願いを叶えに来たのであれば、今までの行為は全くの迷惑行為でしかない。
魔理沙は壁にもたれながら未璃の言うことを否定する。
「私はそんな願い思ったことないぞ?」
「ウソ」
「ウソって…」
即答で否定されてしまった。
突っ込む力も入らなかった魔理沙は、ただうな垂れることしか出来ない。
会話が終わったものと判断したのか、未璃は2人の寝巻きを引っ張って寝床へと誘った。
「魔理沙、森近寝る」
霖之助の寝室には布団が一組。…ただし枕は二組。
「ってこの布団おかしいだろ?!」
「…?」
まるで魔理沙の言っていることが分からないかのような仕草は、魔理沙のイラつきを上がらせる。しまいにまたも訳の分からない言葉を発した。
「…私は貴女とよく似てる。貴女が私なら、さしずめ森近は獅子…。魔理沙は獅子の後ろを付いていく尻尾…」
つまり、未璃は魔理沙をいつまでも後ろに付いて歩くそんな人間だと思われたのだ。その言葉は魔理沙の堪忍袋の尾を切るのに十分なものだった。
「誰が金魚の糞だ!!もうやってられるかぁ!!!」
怒鳴り散らし、魔理沙はバタバタと外へと逃げていった。
*
「はぁっはぁっ!」
荒い息遣いをしながら魔理沙は空を見上げた。
夜の空は春のダイヤモンドは輝いている。
しかし、どこか違和感があるのだ。
「…? 星が…なくなってる…?」
春のダイヤモンドに囲われるようにあるはずの3つの星がなくなっているのだ。
「……!」
そして魔理沙は気が付いた。
今までの未璃の行動、言葉、そして現れ方。そこから未璃の正体が分かってしまった。
後ろからヒトの気配。
霖之助と、そして未璃。
「分かってしまったのね…」
「…ああ、ついでにお前の本当の名前もな」
春のダイヤモンドに囲われる星座。
未璃は流れ星でもなんでもなく、星座そのものだったのだ。
「お前は空の星座の一つだ。かみのけ座!」
未璃は銀色の長い髪の毛を揺らしながらゆっくりと口を開いた。
「…魔理沙はいつも私たちと同じような力を使う。それはとても眩しくて…私が羨ましく思うほど…。私はしがない三等星の集まり。魔理沙のように輝かしい力が欲しかった。でも、私は変われない。変わるにはもっと長い年月が必要。だから、魔理沙には自分の気持ちに正直に過ごしてほしかった」
「だからって私は…!」
「森近。魔理沙はお前のことが…」
「あああああ!!!バカバカ言うなぁ!!!」
魔理沙は顔を赤くして未璃の言葉を遮った。
その行動に未璃は眉をひそめた。
「…私バカじゃない」
「違う!私は!それは自分でちゃんと伝える!お前の力なんかなくってもな!」
「………」
魔理沙の目を未璃はジッと見つめる。
その願いにウソはないと理解したのか、未璃は小さくため息をついた。
その行動が気に食わなかったのか、魔理沙は本来叶えて欲しいことを口に出す。
「私の願いはもっと大きな力で弾幕をぶっ飛ばすこと!それが叶えられなきゃおとといきやがれだぜ!」
「…そう。でも、どちらにせよ熊を追う牛使いが来る」
「はぁ?また訳の分からないことを…」
諦めたように言い放つ未璃に、魔理沙が首を傾げた時。
空が歪んだ。
歪んだ空には大きなスキマが顔を覗かしている。
そして、そのスキマから金髪の女性が降りてきた。
「さすが、私よりも長い年月を生きているだけありますね。私が来るのが分かっているなんて。貴女が親の熊としたら、今の私はさしずめ牛飼いですか?」
「私はそれをいつも見てたしがない髪の毛」
「そうですか」
そこに居たのは幻想郷の賢者。運天儀の著作者。八雲紫。
訳の分からない会話についてきている辺り、魔理沙にはますます紫が偏屈な存在と認識してしまう。
空を覆うほどのスキマを背に紫は未璃に言い放った。
「貴女が幻想入りするのは早いわ。さ、あるべき場所に帰りなさいな」
「…わかった」
未璃は小さく頷くと、霖之助と魔理沙のほうを振り向いた。
「…森近、世話になった。…魔理沙、頑張って」
「っ! ちょっ!」
その一言を言った瞬間、未璃の体は光を放ちながら空に向かっていった。
その閃光は眩しく、目を開けていられないほど。
別れの言葉を言う暇もなく立ち去った跡には、本当に何も無かったかのようにいつもの幻想郷があるだけだった。
空には今さっきまで居なくなっていたかみのけ座が輝く。
魔理沙、霖之助、紫の3人は春のダイヤモンドに囲まれるかみのけ座をじっと見つめていた。
「…ちぇっ。なんだよなんにも言わせずに帰りやがって」
「…まぁ、あの子からしたらいつでも見てるものなんだろう」
「それにしても眩しかったぜ」
今もなおチカチカと眩む目を乱暴に擦る。
「さすが…三等星の星座の集まりでも、太陽とさして変わりない光を放つ星座ですわね」
小さな星でもあれほどまで輝かしいものなのかと感心する一方。自分の星の力は未熟と言うことが感じてしまった。それが悔しかったのか、魔理沙は話を関係ない方向へ運ばせる。
「でも外の人間は変な名前をつけるんだな」
「魔理沙、物の名前というのは必ず意味をもつものが多い。とくにかみのけ座はちゃんとした名の由来のある星座だよ」
「まぁ…そうなんだろうけど…。紫のネーミングセンスもなかなかおかしいとは思うけどな」
紫の方を向いて、からかうように口角を上げる。
しかし、当の紫は飄々としており、まるで自分が正しいようにウィンクをしながら言い放った。
「あら、あの子は割と外と同じような名前にしましたわ。九十九髪座ってね」
おまけ
ちゃめいまる「いや~この間偶然店主さんの写真が取れまして~。露出狂疑惑ってことで間違いありませんか?」
りんのしゅけ「…勘弁してくれ…」