《冬のどうでもよすぎる日》



 季節は年末。
 この時期のテレビ番組と言えば、ほとんどが特別番組である。
 大抵は今年にあった出来事をまとめるものか、お笑い芸人が体を張って笑いをとる番組が多い。
 蓮子はこたつに入り、せんべいをかじりながらテレビを見ていた。

「あ、この芸人モノマネうまーい」

 テレビ画面には、芸人が巧みに自分の声色を変え、自分以外の誰かに似せて笑いを取っている。
 芸人が一言言えば、スピーカーから観客の笑い声が流れてきた。

「えなき君の絶対言わなさそうな台詞ねー。たしかにそうかもね」
「『先にシャワー浴びてこいよ』。ははっ!言わない言わない。霖之助でも言わないよー」

 霖之助は今、キッチンで皿洗いをしている。
 水を出しているせいか、それとも皿洗いに集中しているせいなのか、蓮子たちの会話は聞かれていない。
 蓮子のふと言った台詞は、メリーの脳内で再生される。


~~~

 場所は高級ホテルの最上階。
 夜景の綺麗な光を眺めつつ、ホテル特有の薄暗い照明の中、霖之助はメリーおよび紫の肩に手を置いてそっと囁いた。

「先にシャワー浴びておいで」

~~~


「きゃー!!」
「何々?!?!メリーいきなり何叫んでるの?!」
「へっ?! あっ! そのっ…なんでもない」

 驚いた蓮子をごまかしつつ、熱くなった頬をなでてメリーは小さくなる。
 ほんの一言にこんな妄想をする自分が恥ずかしくてしょうがない。
 実は自分はものすごくエッチなのかもしれないと、はしたない自分に反省していると、皿洗いを終えた霖之助が、手ぬぐいで手を拭きながらこたつに入ってきた。 

「ああ、温かい」
「おつかれさま。ありがとね」
「別に苦じゃないよ。それより僕はもう少しこたつに入っているから、先に風呂に入ってくれ」

 その後の言葉は、なぜかメリーの耳には変換されて入ってくる。

『先にシャワーを浴びておいで』

「きゃー!!」

 突如叫びだしたメリーに、蓮子と霖之助はびくりと驚いた。

「なんだいそんな声を出して…」
「さっきから大丈夫?」
「ええ!もう何にも!!」

 風呂に入っている間も、悶々としてしまいメリーはのぼせ上がってしまった。
 蓮子に発見されるのが遅かったら、大妖怪八雲紫であっても溺死があったやもしれないことは、紫以外だれも知らない。