拍手まとめ9





《ニッポニア・ニッポン》


 香霖堂裏には小規模であるが庭がある。
 その庭には店主・霖之助の趣味、及び食料となる野菜が植えられ、四季が替わるたびに色とりどりの野菜・果実が実っていった。

 そんなある日、庭に突如大量の泥が飛び込んできた。
 いつかの雨降り続く現象のせいか、裏に溜まっていた泥水が決壊し、庭に流れ込んだのだ。
 幸い庭の野菜・果物に影響はなかった。
 むしろドジョウやサワガニも同時に流れ込み、ちょっとした酒の肴が作れるほど。
 これを機に庭に池を作るのもいい。そう考え、庭に穴を掘ろうとスコップを納屋から出してきたときだった。

「わ!ここにもドジョウが!!」
「………」

 そこにはいつか本を取りに来た少女が泥だらけになりながらドジョウを捕まえていた。
 スコップを片手に霖之助は落胆した。

「…君はそこで何をしているんだ」
「あっ! わっ! 見つかった! 〜〜っ! こうなったらっ!!」

 霖之助と目を合わせた途端、弾いたように肩を揺らした。
 泥だらけの手を拭くこともなく風のように走る。
 …香霖堂に向かって。

「うわぁ!そんな泥だらけで店内に入らないでくれ!!」
「アンタが早く私の本を返せばいい話でしょぉ!」

 泥が付いていたのは手だけではない。
 青が混じる銀色の髪の毛。
 鮮やかな青いスカート。
 その下の白いペチコート。
 黒に近い茶色の泥は、少女が走るたびに振り落とされ、香霖堂店内に飛び散った。
 高価な道具から珍しい道具に黒い斑点が襲い掛かる。
 その場に膝を付いて落ち込みたいのを堪え、本と言う本を「アレでもないコレでもない」と言いながら乱雑に扱う少女を止めるために背後へと回った。
 じりじりと距離を縮める。
 素早く押さえつけたいが、急げば少女からの泥攻撃が襲い掛かるかもしれない。
 霖之助自身はその攻撃に何も恐れてはいなかったが、もしその泥攻撃が商品にかかっては霖之助にとっては本末転倒なのだ。
 静かに、一発で少女を押さえつけるために、慎重に背後を狙ったとき。

「香霖ーいるかー?」
「霖之助さん、お茶が飲みたいんだけど」

 扉には見知った2人。
 背後の霖之助に気付かなかった少女もカウベルの音には反応し、そして大きく目を見開いて叫んだ。

「きゃぁぁぁああ!!!」

 ドタドタと足音を響かせ、同時に大量の泥を振りまきながら、少女は逃げ帰ってしまった。
 遠くで「なんで黒白と赤白がいるのよぉ!」と聞こえたが、霖之助にとって今はそれどころではない。

「霖之助さん…あんな小さな子に背後から何しようとしたのよ」
「これがロリコンってやつか?叫び声からしてそれはそれはすごいことしようとしてたんだろうな?」

 2人にいい訳したいのはもちろんだが、店内の様子に思わず泣きたくなった。
 青い服の少女に生えた赤い翼が悪魔を彷彿させたが、これから黒と白、白と赤の装束の身に纏った少女2人からの責問にただ肩を落とすことしかできない霖之助だった。





朱鷺の主食はドジョウやサワガニ、カエル・昆虫と中々肉食。
んでもって朱鷺の学名はニッポニア・ニッポンなんだよ!







《朱鷺色の頬》


 その日、里に出た霖之助は、いい反物を手に入れた。
 柔らかく、軽い肌触りのそれは丁寧に織られているのが霖之助の能力を使わなくとも分かった品である。
 色は桜より濃く梅より薄いピンク色。
 幼い少女が好みそうな色に、吸血鬼のドレスにどうだろうと考えた。
 よく来店するメイドに勧めれば、こころよく買うに違いない。
 だが、反物の状態では何もできない。まず服の形にしなければ。そう決意すると、霖之助は早々に裁縫ミシンを動かした。

 数日後、反物は少女用のアフタヌーンドレスへと変わっていた。布の出来からカクテルドレスにもイヴニングドレスにも引きを取らないほど豪華なものになったが、館の主がそんなことを気にするほどではないだろうと霖之助は結論付けた。
 あとは丈を手直しする程度。
 さて、何円で売れるか。
 そんな気持ちが霖之助の気持ちを高揚させていると、香霖堂の外から鳴き声が聞こえてきた。

「っひ…ぅ、くぅう」

 訂正、泣き声だった。
 泣き止まない声にうんざりしながら「泣くなら他所でしてくれ」と言い放とうと扉を開けると、そこにはいつかの霊夢に本を盗られたという少女が座り込んでいた。

「泣くなら…」
「アンタのせいで私ケチョンケチョンじゃない!!どうしてくれるのよ!!」

 言おうとした言葉を遮るように少女は言った。
 少女の髪の毛はぼさぼさ、皮膚には軽い擦り傷切り傷が見える。
 服は所々破れ、埃汚れと焼き焦げたような黒いふちの穴が開いていた。
 見るも無残な姿だったが、霖之助は同情などしない。

「……弾幕ごっこでもしたのかい?」
「あーしたわよ!白と赤のやつと!!」

 瞬時に霊夢と判断し、また気まぐれで妖怪退治でもしたのかと思い浮かんだ。

「アイツったら私のお昼寝の最中に襲い掛かってきたのよ?!信じらんない!!」
「まぁ…それが仕事みたいな子だからね」
「アンタ責任とって私に謝ってよ!!」
「なんで僕が…」
「赤白は時々青黒になるからアンタでいいのよ!もしくは責任とって私に本をくれることね!」
「…それが狙いか」
「いいじゃない!」

 無理な願いに霖之助は頭を掻いた。
 本を渡すことも、覚えのないことで謝るのも御免被りたい。
 目の前の少女も苛立つのは最初だけと思い放っておこうかと考えたが、少女の頬は赤くなるばかりであっという間に自分の頭から生えている羽と同じ色になってしまった。

「…あ、あと…ぱ、ぱ……ぱぱぱ…」
「ぱ?」

 少女はしり込みするようにおずおずと、そしてパクパクと口を開閉させるが、肝心の内容がはっきりと聞こえない。
 耳元を少女の方へ近づけると震える声が耳に入った。

「……んつ貸して…」
「え?」
「ぱっパンツ貸してって言ったの!!!」

 霖之助がいつまでも理解しないのが苛立ったのか、少女は大声で用件を言った。
 キーンと響く耳を摩りながら、霖之助は少女の言った言葉を頭の中で反芻し、そして耳を疑った。

「は?」
「赤白のせいでスカートボロボロだし下着にまで穴開いちゃったわけ!!どうしてくれるのよ!!」

 タコのように赤くなった顔に、さらに涙目も加わる。
 尻を手で押さえるあたり本当のことだろうが、霖之助にはどうにもできないことだった。

「どうするって…。申し訳ないけど女性の下着までは扱ってないんだ」
「ど、どぉしてよぉ!アンタ時々赤白になるんでしょ?!」
「それは霊夢(赤白)が僕の服(青黒)を着ただけで…」

 赤い顔が迫ってくるために、さすがの霖之助も困った。
 早く少女の機嫌を直さなければ自分の本に影響があるだろう。少女の目的は自分の本にあるのだから。

「そうだ、下着はないが服なら貸せる。たしか霊夢の代えの服が…」

 ひらめいた霖之助が奥から出してきた服に少女は絶句した。

「なによ…これ」
「服だが。正確に言うと巫女装束だね。博麗のね」
「なんで私が赤白を着なくちゃいけないのよ!!」
「いや、君が貸してくれって言うから」
「だからって天敵の赤白になんかなりたくないわ!」
「…あと貸せる服といったら僕の服くらいだが…少し大きいんじゃ…」

 霖之助は思わぬ地雷を踏んでしまった。少女の赤い顔は風船のように膨れ上がり、今にも弾幕を出す気配する。
 このままでは本も何もおじゃんになってしまう。そう思った霖之助だったが、ふと畳んでいた服に少女は気付き、そして目を輝かした。

「こっこれは!!」
「あ!それは売り物だからダメ…っ!」

 それはあと丈を直せば売り物となるドレス。
 コスモス色の鮮やかなドレス。
 桃のように可憐で、ガーベラのような華やかなドレス。
 その素晴らしい様に、少女は興奮を隠せずにいた。

「これがいい」
「だめ」
「私がこうなったのはアンタのせいなんだからいいじゃないこれくらい!」
「なんでそうなるんだ」
「いいじゃないよもー!これじゃなきゃヤダァ!」

 ドレスを抱きしめる少女の背にちょっとした弾幕が見えた。
 無意識なのか、脅しなのか、少女に不穏な気配を察知し、霖之助はねだる少女に勝てないと折れてしまった。





「わぁっ!」

 少女にあわせ軽く丈を合わせると、全身鏡の前に走る。
 くるくるとスカートを翻し、ふふふっと機嫌よく笑った。

「赤白は嫌だけど混ざると好きな色だわ♪」

 赤くなって怒っていた表情はなく、今はドレスと同じ色のピンク色に頬を染めながら喜んでいる。
 その喜ぶ姿を見ていると、霖之助はまぁいいやと思ってしまった。

 少女は「いつかこの借りは返す」と言って自分の住処に帰っていった。

 そのときの少女の頬の色に名前を付けるならば、きっと――…。





朱鷺の色っていうのはこんな色→■■■
つまりだ。今朱鷺子のスカートの下ははい(ry







《コウノトリの忘れ物》


 その日の霖之助の夢は大きな目玉焼きの夢だった。
 白くて丸い絨毯の上に、まるで満月のような黄色のクッション。
 それはそれは美味しいそうで、それはそれは大きかった。

 夢から覚めた霖之助は、目玉焼きを朝食にしようと台所に向かう。
 寝ぼけているのか、居間に少女が卵を抱えて座って見えた。
 少女はいつか魔理沙と弾幕ごっこをした少女。頭から生えている赤い翼をピョコピョコと揺らす。
 少女の抱える卵は大きく、軽く猫が入る程度。そんな卵で作った目玉焼きは相当美味なのだろうとぼんやり考えていると、寝ぼけ眼の霖之助に少女は卵を撫でながら言った。

「あ!見なさい。お父さんですよ〜」
「あー…。はぁ?!」
「私の子供よ。それでもってアンタの子よ」

 一気に覚醒した頭に、少女の言葉が流れ込まれる。
 しかし、冷静になって考えてみれば、目の前の少女と子供を作る行為をした覚えはない。

「…一応聞いておくが、子供はどうやってできるか知っているのかい?」
「当然よ!コウノトリが運ぶんでしょ!」
「ああ、そう。で、なんで僕が父親なんだ」
「私思ったの。本を返して貰えないくらいならいっそのこと一緒になっちゃえばいいと思って」

 やはり出産を何かと履き違えてるとホッとしたが、同時に未だ取られた本のことを気にしているがために自分を巻き込むなど、霖之助にとってはいい迷惑としか考えられなかった。

「……で、その卵は?」
「私の住処の目の前で拾ったの!ちょっと早いけど私がお母さんになるなんて…えへへっ」

 頬を染めながら照れた笑いをする少女は見惚れるほど可愛らしい。…が、それに霖之助が気付くわけはなく、少女の持ってきた卵に興味を惹かれていた。

「この大きさだと…妖精か化け猫の卵だろうか…?」
「だからアンタと私の子供って言ってるじゃない!」
「残念ながら君の子でも僕の子供でもない。もしかしたら本当の親が今もなおこの卵を捜しているかもしれないな…」
「だから私のー…!」

 卵だってば!
 そう言おうとした少女だったが、言葉の前に身に降りかかる振動に言葉をなくしてしまった。

「何っ?! 地震っ?!」
「店が潰れるっ!!」

 ゴゴゴと地響きを鳴らしながら香霖堂は大きく揺れた。
 柱にしがみついて揺れが収まるのを待つが、いつまでも揺れが止むことはない。
 ふと外の様子をのぞくと、いつもの魔法の森の木々はおろか草花一本なかった。
 窓一面は少女の服のような鮮やかな青を示し、白い雲と銀色の日の光が見える。
 言葉を失う霖之助だったが、香霖堂が浮んでいることは確かなのだ。
 このまま落下してしまえば陥落の後に崩壊という図が頭に浮ぶ。
 サッと血の気が引くと同時に、店が大きく揺れた。

「きゃんっ」
「あ!君!」

 大きな揺れにゴンッと鈍い打撃音を頭に鳴らして少女はそのまま動かなくなる。
 心配そうに駆け寄る霖之助が見たものは、気絶してる少女の手にがっちりと卵が支えられている様だった。

「あややぁ? 卵泥棒と思って威嚇してみたら店主さんとは」
「君は…」

 店を空中に浮ばせた張本人が窓から侵入してきた。
 いつも窓ガラスを破壊しながら新聞を配る少女は幻想のブン屋の二つ名を持っている。
 店一つ宙に浮かせているにも関わらず、明るく小首を傾げながら言った。

「どーもっ 清く正しく射命丸文! 上の命令で卵を奪還しにきました♪」
「この卵は鴉天狗のものだったのか」
「はい。で、返してもらえないでしょうか?」
「返すも何も僕は関係ない。この子に言ってくれ」
「ああ、この下級妖怪が卵を…。あー上になんて言おうかしら」

 このまま卵を取り上げてしまうのは心ないように感じ、知らず知らずに霖之助は言葉を出していた。

「この子は少々勘違いしただけなんだ。すまないが僕に免じて許してくれないかな?」
「えー…どうしましょうかねー?」

 ニヤニヤと薄笑いを浮かべる文に、霖之助はしまった、と思っていた。
 借りを作るのはもちろん、少女を守った自分を知られるもの控えたい。

「…じゃあ聞くが、僕はこの子から卵は拾ったと聞いた。これが天狗の卵ならなぜそんなところにあったんだい?」
「そ、それはですねー…」
「大方卵は盗まれたのではなく天狗自身が落としたんじゃないか?」

 口篭る文に気付いた霖之助はここぞとばかり責める。
 すると、文は口を尖らせて文花帖に書かれたメモをペンでかき消した。

「うぅ…当たりです。…ちぇっ 盗まれたって書いたほうが面白かったのに…」

 これだから天狗の新聞は…。
 霖之助はそう口に出そうとして止めた。
 天狗の新聞に信憑性がないのは前々から分かっていることなのだ。
 とりあえず、自分が記事に書かれることがないと分かりホッとしていると、少女から遠慮なく卵を奪った文が調子よく言った。

「この件は私に免じては“鴉天狗が落とした”のではなく、“香霖堂店主が卵を誘拐した”そう新聞に書いていいと認めてくださるんならお咎め無しにしてもらいましょう♪」
「せめて介抱したと書いてくれ」
「あははっ ウソですよ! 店主さんと私のよしみで許しましょう。でも…この卵の親がこんな小妖怪と店主さんなんて、…私じゃなくても興味津々ですよ」

 がっくりと肩を落とす霖之助に、文は楽しげに笑う。
 そして未だ気絶し続ける少女をマジマジと見つめる。
 意味深な言葉は霖之助に理解されることはなく、不思議そうに首を傾けていた。

「? どうゆうことだい?」
「なんでもないですっ とにかく!この卵は丁重に強奪させていただきますから」
「ああ」

 まさに風のごとく。
 青空覗く窓から出て行く黒い翼を見送っていると、遠い空から文の声がこだました。

「ああそうそう! 店は私が責任持って元の位置に戻しますからぁ!!」
「…? っぁわ!!」

 その声に返事する暇もなく、大きな音と振動を立てながら香霖堂は元の位置に着地した。


* * *


「いたた…」
「目覚めたかい」

 ヒリヒリと痛む頭を撫でる少女は、自分がどうして気絶していたのかも分からずにぼんやりと周りを見回していた。
 空になった手を見つめ、弾かれたようにその場で飛び跳ねた。

「たっ卵!私の卵割れてないっ?!」
「たった今本物の母親の元に帰っていったよ」
「えぇ?!わ…私の…卵がぁ…」

 めそめそと泣き崩れる少女に少々罪悪感に駆られ、元気付ける言葉を探す。
 …が、気の利いた台詞など考えることのできなかった霖之助は頬を指で掻きながら言った。

「…ま、君ももう少し大きくなったら本物の母親というものになるさ」
「ぶぅ…。じゃあそのときはアンタ責任持って父親になりなさいよ!」
「断る」

 頬を膨らます少女に、二度と関わりたくないと思った霖之助は素直に断った。
 膨らんだ頬は真っ赤になってさらに膨らんだ。

「いーじゃないのぉ!」
「そうゆうのはもっと大人になってから言いなさい」
「ぶぅうう!!いーもん!アンタが悶絶するような大人な女になってやるわよ!覚悟しなさいよ!」

 風船のように膨らんだ顔がおかしくて、そしてくだらないことにムキになる少女が面白くて、困ったように笑う霖之助はふぅと小さくため息をついた。

「本のためによくやるね」
「……あ!そうだった!」

 霖之助の一言に少女は一時停止をすると、顔を赤くしながら飛び跳ねた。
 まるで熱されたやかんのような行動に、霖之助は少女が何を思ったのか理解できなくて首を傾げる。

「? 変な子だなぁ」
「い、いいいいわよ!!わ私がムッチムチになったら、アッアンタも本も私モノなんだから!」
「はいはい」

あっかんべー

 と舌を出しながら捨て台詞を吐いて出て行く少女を見送りながら、霖之助は空を羽ばたく季節外れの朱鷺を見た気がした。





三月精のあの話。霖之助&朱鷺子バージョン
霖之助の優先順位
店>>…>>越えられない壁>>…>>恋愛。
あ、みんな知ってるか







どうでもいいNG集

NG1
霖之助「泣くなら他所でしてくれ」
朱鷺子「ターア!グァー!カッカッ!」
霖之助「…なんだいそれは」
朱鷺子「だって鳴くならってアンタが言うから」

朱鷺の鳴き声ってカラスみたいなんだって
(´ρ`)ヘー




NG2
咲夜「店主さん。私はお嬢様のドレスが出来ると風の噂を聞いていたのですが…」
霖之助「…このリボンなんてどうだろう。お嬢様の艶やかな髪に似合うと思うのだが」
咲夜「…まぁいい色ですけど…」
霖之助「…すまない」

ドレスが手に入らなくて残念なお嬢様。でも霖之助も残念なんだよ。